K文学
絵本・詩・エッセイ・小説など
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クリムチェク(그림책)=絵本
◎『알사탕』 =『あめだま』
2018年1月、釜山の大手の中古本屋で出会った絵本。広い入り口には読者が選んだ50冊以上の本が展示されていた。何冊かパラパラと読みながら足を止めて一気に読んだ絵本がある。2017年3月に出版された絵本のタイトルは『알사탕』。「飴玉」という意味だ。何とも言えない表紙の子供の表情に誘われ手に取った。立ち読みの短い時間、感動に包まれうるっとしてきたのを覚えている。
いつも独りで遊ぶドンドンという名前の子供の話だ。飴玉をなめると不思議なことに声が聞こえてくる。家のソファ、飼い犬、パパ、亡きおばあちゃん、落ち葉の声が聞こえ対話するうち考えや思いを知るようになる。いつの間にか手元には最後の6つ目の飴玉だけが残る。透明な飴玉を口に入れるが、今回は何も聞こない。落ち葉が舞い落ちる公園でドンドンは…。
作家ペク・ヒナ(백희나)さんの凄さは、職人魂で作る造形キャラクー制作にもある。作家の絵本の「絵」の制作は今まで見たことのない新しいものだった。その手法はドンドンキャラクターのような粘土で作るときもあり、ときには布、ときには紙で作って写真撮影をして「絵」にする方法である。舞台セットのように細かい背景まで自身で制作している。キャラクターの表情の繊細さや背景制作がすごすぎる!2019年、札幌韓国総領事館の招待で来札したときイベント会場でペクさんに粘土であんな表情が出せるなんてすごいですと言ったら、嬉しそうににこっと笑ってくれた。
2020年、絵本界のノーベル文学賞ともいわれている「アストリッド・リンドグレーン賞」を受賞した。日本では原作のすぐあと、2018年日本語版『あめだま』が出版され、今も多くのファンがいる。またアニメーション界からもいち早く注目され短編アニメ映画として同じタイトル『あめだま』で制作され、アメリカアカデミー賞にノミネートされた。私の中では受賞作は「あめだま」だった。
ペク・ヒナさんの「絵」も物語もどちらも心を動かせる作品だった。今も授業でときどき取り上げ辞書を引きながら『알사탕』をみんなで読んでいる。それぞれの選ぶ言葉もいろいろでおもしろい!翻訳は第二の創作ともいわれている意味がよくわかる。
作家はちょっとしたファンタージ要素が好きだと言っていた。魔法のようなファンタジーの力を借りて背中を押してくれる設定は大人の読者でも勇気をもらう。2024年12月に出版された『해피버스데이』(Happy Birthday)もファンタジー性があり、最後は自分の力でハードルを乗り越え成長する物語だ。布で作ったキャラクターがまたすばらしい。日本語版を楽しみにしたい!
(『알사탕』は購入した2018年には「책읽는 곰(bear books)2017」から出版されたが、今は「스토리보울(Storyboul)」出版社からペク・ヒナさんの本が出版されている。)
シジプ(시집)=詩集
◎「틈」(「隙間」)ー김지하 『중심의 괴로움』1994(金芝河 『中心の辛さ』)からー
金芝河先生。2022年5月、帰らぬ人になった(享年81歳)。晩年は孤独の日々を過ごし、もどかしさと無念で哀しい思いをしただろうと想像する。残念でならない。詩人は若いごろ朴政権の独裁体制に文人としてペンで真正面から立ち向かった末、獄中で過ごす日々を送る。その後遺症は一生消えなかったそうだ。その頃から「生命」(생명)について深く深く考える日々を送っていたという。詩人の詩は骨太いものが広く紹介されているが「생명」(生命)、「생/삶」(生)について詠っている詩もたくさんある。
そのひとつ「틈」。隙間という意味だが、辞書を引くと「隙間」・「空」・「透き間」などの意味が書いてある。三聯に「閉ざされた生にも春訪れるのは隙間のお陰」と詠んでいるが、隙間を作り花芽と葉芽が萌え出すように厳しい冬を乗り越えて、生命力と希望が光る詩の一句だった。そこには詩人の侘しさも感じられ胸が痛む。『중심의 괴로움』の自序に「90年、91年の短いひとときは明るかったが再び霞んだ私の魂の暗闇の中で、その孤寂の中で詩は私に息できる隙間だった。」と詠っている。この時期は、生前詩人が苦められた1991年5月朝鮮日報「若い友よ!歴史から何を学んでいるのか(젊은 벗들! 역사에서 무엇을 배우는가)」の記事が出た時期と重なる。
2025年1月8日MBCラジオを聴いていたら、キムジハ(金芝河)と、名前が挙げられた。韓国小説家である金洪信(キム・ホンシン김홍신)さんがラジオインタビューで、2024年12月3日以降、自分の名前を使って尹政権を擁護する文章が発表・拡散され作家としての良心が疑われる今回の盗用事件に対して、今回こそは許すことなく法律対応をするつもりだと述べた。「盗用」というのは文章を継ぎ接ぎしたことだった。その発言の中で「私だけでなく、今まで金芝河先輩、趙延来(チョ・ジョンネ)先輩を利用した事例がある」とはっきりと言った。司会者の掘り下げる質問がなかったのもあり、いつのことなのかは触れなかった。ものすごく気になる発言だった。
「틈」の一句
갇힌 삶에도 / 봄 오는 것은 / 빈 틈 때문